あの日　わたしは

宮城県気仙沼市- 今まで見たことがない波だった。水面からパーッと土手になって立ち上がったんだよ、波が。陸が見えなくなる、壁になっていた。宮城県気仙沼市の漁師、斎藤勇（さいとう・いさむ）さんです。船を津波から守ろうと、沖に出しましたが、その間に、自宅が津波に襲われました。斎藤さんは、海面を泳ぐカジキなどをもりで突く、「突きん棒漁（つきんぼうりょう）」をなりわいとしています。以前、斎藤さんの傍らには、息子の純さんがいました。しかし今、船には１人用の「突き台」しか設けていません。（息子には）私の右腕というか、そういうふうになってもらいたかった。だんだん（仕事を）覚えてきたときに、こういうふうになってしまったんだ。それは悔しいね。あの日、息子のため、家族のため、この船を命がけで守りました。しかしそれは、決して消えない後悔の日々の始まりでもありました。