みんな祭り好きですよね。…県外とかに行ってても、祭りのために帰って来るみたいな。
みんな祭り好きですよね。…県外とかに行ってても、祭りのために帰って来るみたいな。
病院の屋上で孤立 ~町が壊れ、燃えていくのを見た夜
田中亜希子(たなかあきこ)。昭和55年11月7日生まれ、30歳です。生まれ育ったのは岩手町っていう内陸の町。高校卒業して、矢巾町にある病院に就職して、盛岡市に住んで矢巾町の職場に通ってたんです。昨年4月に結婚して、5月から大槌町に住みだして、12月の半ばぐらいから大槌町の社協(社会福祉協議会)に勤めだしました。ケアマネジャーをしています。
あの日、社協のケアマネジャー全員講習で釜石市に行ってた。そこで地震受けて、担当の利用者がいるので、お年寄りとかそういう人の安否確認しなきゃいけないと思って、大槌に戻ってきて。事務所に着いてすぐに消防団の人たちが「津波来てる」って叫んで歩いてたんで。私元々内陸の出身なので、まだ住み出して1年も経ってなかったんで、町のこととかわかんないし、逃げるところとかもよくわかんないままだったんで。同じ社協の課長が近くにいたので、その人に着いてって。
本当は近くっていうか、津波の被害に遭ってない、社協がやってるデイサービスセンターに避難する指示が出てたんですけど、もう間に合わなくて。すぐ近くの、町の中にある病院に逃げ込んで、そこの3階まで上がったときに、もう、自分たちより上の波が、家壊しながら来てるのが見えて…、3階じゃ間に合わないと思って、全員で屋上に上がって。
津波が来て。町が壊れていくのを見て。もう孤立した状態だった。町の真ん中にあるので。なので、一晩そこにいて、燃えてく町とかそういうのを全部見て。次の日、何時ぐらいだったかわからないんですけど、ヘリコプター、自衛隊のヘリコプターで上からつり上げてもらって助けられた。
吉里吉里流結婚の祝い方~行列のできる婚家
結婚式は盛岡でしました。私の実家も旦那の実家も、お互いに親戚が多い家なんで、なんかやっぱり呼ばれたら、呼ばなきゃいけないみたいな。どんどんどんどん増えていく。出席者は全部で200人ちょっとだったと思います。
うちの実家のほうはないんですけど、こっちは結婚式前くらいから、直接家にお祝いを持って来るんですね。結婚式終わった後も、4月24だったかな、24日に結婚式したんですけど、5月、6月くらいまで、日がいい日を見て、結婚式に来なかったお客さんとか、近所の人が結婚式の写真とかを見に家に来てくれるんです。誰が何時に来るとか予定表があるんじゃなくって、大安とかの日になると、近所の人とかと「今日行ってこよう」みたいな感じで声かけ合って、3、4人で来て(笑)。終わりまで数えれば、延べ何百人という人が来るんです。私もびっくりしたんですけど、ここはそういうのが行われてる地域らしくて。親戚のおばちゃんたちが毎日来て料理作ったり、来た人のおもてなしをしたり。
私はその場にいた日もあれば、いない日もあります。お客さんが来たらお相手して、「どこで出会ったの」とか、「旦那のどこが良かったの」とか、そんな話を何回も何回もしなきゃいけないんです(笑)。4月に結婚して、6月くらいまであったんで、丸々2カ月はあるんです。
つながりの濃い吉里吉里の親戚
吉里吉里は狭いところなんで。狭く濃くっていう感じの地域なんで、見たり聞いたりしてると。きっと吉里吉里の人は吉里吉里の人同士で知らない人はいないんじゃないかっていう感じがします。
お義父さんもお義母さんも吉里吉里同士で結婚してるし。たぶん親戚が多いんだと思います。うちは特に、旦那のお父さんの兄弟とお母さんの兄弟で、2組夫婦がいるんです。うちの旦那の親が末っ子同士の夫婦なんですね。お義母さんの兄弟の長男とお義父さんの兄弟の長女が結婚してるんです。だいたいの兄弟が、みんなこの吉里吉里にいるんで、旦那のおじいちゃんの兄弟の家族だったり、その人たちもいっぱいいるんですよ。結局辿れば全員親戚じゃないかっていう感じなんです。
何をするにも常に兄弟がみんな一緒に。よく聞けば、この吉里吉里の中だけで結婚していってるから、結局全員親戚になって、って言いますけどね。だからたぶん住み心地はいいんだと思います、吉里吉里にいれば。ただ外から入ってくると、ちょっとそれがつらいときもありますけど。
でもやっぱりなんか、この地震とかがあって、たぶん助け合いとかが強いんだと思います、ここは他に比べたら。協力し合う体制を作るのも早いし。他の地域に比べたら、そういう組織作ったりするのも、結局みんな知ってる者同士だし、みんな親戚だし、助けなきゃ助けなきゃっていうのは強いので、そういうのはいいんでしょうね、きっと。
盛岡にいるときは、隣に住んでる人も誰かわかんないし、という感じだったんで。吉里吉里はどこに行っても、私は知らないけど向こうは知ってるという感じで。でも、「温かいな」というのは感じましたけど、住んでくうちにもっとよく感じてくるんでしょうけど…。
一族の絆を強める鹿子踊り
吉里吉里のお祭りは8月にやります。結婚する前も見に来たりしてたんですが、みんな祭り好きですよね。元々郷土芸能とかやってるので、それに属してる人は、県外とかに行ってても、祭りのために帰って来るみたいな。
吉里吉里の場合は踊り。踊りですけど、何個かあるんですよ。虎舞とか鹿子踊り(ししおどり)だったり、神楽とか、なんか色々。旦那も鹿子踊りやっててという感じの家なんで。うちは鹿子踊り系列の家っていうか、親戚がみんな鹿子踊りで。去年の私たちの結婚披露宴でも、鹿子踊りやってもらいました。結局呼ばれて来た人ほとんど鹿子踊りできる人たちって感じなんで。何人かにお願いしてやってもらった感じでした。鹿子踊りしてるときも、「ああ、吉里吉里の鹿子踊りだ」って吉里吉里側の親戚が周りを囲むから、盛岡の私の親戚は「何やってんだろ」みたいな。「太鼓鳴ってるけど」ぐらいでよく見えなかった。
鹿子踊りは、鹿子のかぶりものをかぶって踊ります。かっこいいですよ。神社でやって次の日には練り歩きます、町全部を。町には誰もいなくなりますけど、人が。出る人がほとんどで見る人がいない(笑)。みんな祭り好きで。
見る人は年寄りとちっちゃい子供とか。大人はみんな踊るほうです。好きなんですね、きっとそういうのが。わりとそういう郷土芸能は男の人が多くて、女の人は手踊りで何丁目何丁目に分かれて、列作って、演歌みたいなのに合わせて踊ったりする。私も去年手踊りに誘われましたけど、かたくなに断りました(笑)。
ご近所の団結力
吉里吉里は親戚だけじゃなくて、隣近所も親戚じゃないけど親戚みたいなもんっていう感じなので、ちょっとたくさんおかず作ったら持っていったりとか、洗濯物も雨が降ってきたら、勝手に取り込んで家の中に置いてあったりだとか。わりと、日中は玄関のカギをかけていないんです。だからこっちに来てびっくりしたんですけど、普通だったらピンポンして、「はーい」、ガラガラって開けて入るじゃないですか。こっちはピンポンとか何もなく、ガッと開けて、「お邪魔します」と言ってる頃には、もうリビングにいるみたいな(笑)。呼び鈴があっても、みんな使わない。使うのはほんとに、集金ですとか、そういう人くらいで。地域の人は玄関から声が聞こえて、玄関に出ていったときには、もう家の中に入ってます。
そんなことが普通にあるんです。ここは。ずうっとそうやってきた人たちは助かるんだと思います。ずっと住んでた人たちには自然で。すごい団結力です。
「元気な女の人」に支えられる吉里吉里
自分のお母さんも、若いころ親戚が多い家に嫁いできたんで、またそういうとこに娘を嫁に出すのはやっぱり嫌だったみたいですけど。お母さんには、反対したところで本人同士がいいって言ってるのに、親が言ったところでどうにもならないって、結局結婚したんですけど(笑)。
結局、そういう郷土芸能以外にも何にしても、みんな仲がよくて、何でも助けてくれるから。
吉里吉里の男の人たちを、女の人が支えているというか。そんな感じがしますね。女の人が強いというイメージがあります、吉里吉里。きっと漁師だから、ほとんどが。亭主関白に見えるけど(笑)、みんな海に出てるから、家守ってるのはたぶん女の人たちなんで、女の人が元気じゃないとやっていけないんだろうなという感じがします。見てると、どこの家でも。女の人は元気です。